partⅡ 5.ポイントが確実であること ポイントとは犬がゲームを察知して手前で静止する準備動作である。
ゲームの実体ではなく砂浴びや寝ていた跡(残臭)にポイントする空ポイントは未熟な犬に多いが、キジは追跡をくらますために「キツネだまし」と言われる迷路を作るなどの知恵を使うので、空ポイントしたからと言ってダメな犬と決めるのは性急すぎる。
あるいは空ポイントに見えても実際は実体にポイントしていることも多い。ポイントは30~60cm前が理想だがそこまで接近しなくても良い。
ポイントと解除(否定)を繰り返すことは好ましくないが、雉がゲームの場合はポイントを解除した後に更にゲームを追求し続けること(リロケーション)は欠点とは見なさない。
ポイントを解除して別方向からポイントし直すという仕草も、時には立ち廻りの上手い犬が良くやる動作である。
6.バッキングのあること バックとは「ゲームへの第一攻撃を他にゆずる態度」
犬の群集は「家長主義」を基としており、年期や序列の順位制が敷かれた強烈な恭順性を持つ動物である。
狩りをするときは最も有利な犬が第一次の攻撃をして若輩犬が先に攻撃することはない。バックはそうした犬の本能的な自制心や忠実心を基本とした行動と考えられる。潜在していて現れない犬の場合は訓練によって発現の可能性がある。
バックの猟能がある犬は主人の猟に対する適応性が高く自制心がある使いやすい犬である。
7.強い忠実心を持たねばならない 主人に忠実でない犬はセルフハンティング(自分にための猟)をする犬になりがちだ。
例えばポイントしたとき犬がゲームに飛び掛かりたい捕獲欲を抑えて主人を待つのは忠実心によるものである。だから忠実心に乏しい犬は待ちきれずに飛込んででしまう。家長制度が形態の犬にとって忠実心は生まれつき持っているが、ポインター、セターは忠実心の乏しい方で(特にポインター)中には生活や訓練方法で一層忠実心を低下させている犬もいる。忠実心は順応性の高い犬に正しい訓練をして植えつけられるものであり、主人のために奉仕しようという意欲(忠実心)こそ実猟犬に欠かせない要素の1つである。
8.適度の服従心を持たねばならない 服従心が忠実心と似ているのは同じ本源である順応性が形を変えているものだからだ。服従心と忠実心の違いを明確にすると、忠実心が積極的であり協力的であるのに対し、服従心は消極的であり自らに抑制的であること。
服従心は主人の命令や行動に従うことで、この性質の強い犬は訓練しやすいが、あまり服従心の強い犬は自主性が抑制され消極的なので実猟犬の場合は好ましくない。
例えば犬はポイント後にゲームが飛び出すと追いかけたくなる。本能的に逃げるものを見るとジッとしていられない動物だからだが、主人の命令によってこの衝動を抑えるのは正常な服従心があってできることだ。
忠実心と自主性などに支えられた正常な服従心を持つ犬は訓練を受け入れてスクスクと猟技が伸びる。
9.主人のたどる方向に捜索してゆく 主人がゲームが居そうなところを巡り犬も主人の歩く方向と歩調を合わせ、主人の前方左右を捜索するのが実猟の大筋。
主人のたどる方向に捜索するかは訓練でかなりコントロールできるが、バードセンスに乏しい人がハンドルすると上手くいかない。
中には主人をリードして引っ張っていくような名実猟犬もいる。
10.主人と連絡を密にしなければならない 広い草原など主人から相当離れることは捜索するために必要であるが、そんな場合でも犬は主人の居場所を念頭に置きながら行動すべきだ。犬は鋭い嗅覚で主人の体臭で位置を知り、主人の足音や藪こぎの音などを聞きつけ他人か主人かを判断する。目は色覚と形状覚は良くないものの動くものを見る視力は割合と高度。感覚が正常であればたやすく主人の位置を知ることができる。
実猟の場合は犬の方からより密に連絡をとるべきだが、孤独感や依頼心からの連絡、または忠実さからの連絡は区別すべきだ。後者は神経質な犬、未熟な犬、自主性に乏しい犬がしばしばやることで問題。
良い連絡は忠実心に富む犬をのびのびと育てることによってできあがる。強制によってできるものではなく、知性によって芽生えるものでもなく、主人と犬の信頼がこれを育てるのだ。良好な連絡は実猟でもフィールドトライアルでも重要だ。
白井氏は文末に「猟犬のことは完全に知りつくすことはできないので常に新たな実験考察追試を加えていくべき」と結んでいます。
しかし60年前のこの記事に古さは感じませんでした。
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◆ブリタニーは野山で雉を探す猟犬です。
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